AI×流体解析
深層学習と次元圧縮技術の融合による、リアルタイム浸水域予測手法の構築

近年、気候変動の影響により線状降水帯やゲリラ豪雨などの極端気象が頻発しており、河川氾濫による水害リスクが増大しています。住民の迅速な避難や自治体の防災対応のためには、刻一刻と変化する状況に合わせて「どこが・いつ・どのくらい浸水するか」をリアルタイムに予測することが不可欠です。しかし、従来の物理モデル(数値シミュレーション)を用いた浸水解析は計算負荷が非常に高く、即時性に欠けるという課題がありました。
そこで本研究では、「次元圧縮技術」と「深層学習(AI)」を組み合わせることで、従来の物理シミュレーションと同等の精度を保ちながら、計算時間を劇的に短縮する代替モデル(サロゲートモデル)の開発を行っています。
具体的には、東京都荒川流域を対象とし、20万次元以上(約22万グリッド)に及ぶ膨大な浸水深データを、特異値分解(SVD)、非負値行列因子分解(NMF)、オートエンコーダ(AE)といった手法を用いて、わずか「10次元」程度の特徴量へと圧縮します。そして、時系列データの学習に長けたニューラルネットワーク(LSTMやGRU等)を用いて、河川の越流水深から圧縮された特徴量を予測し、それを元の浸水分布図へと復元する手法を構築しました。
これまでの検証の結果、物理シミュレーションでは1ケースあたり数分(約200秒以上)かかっていた計算を、本手法ではわずか3~4秒程度で完了させることに成功しました。また、単一地点からの氾濫だけでなく、複数地点からの同時越流といった複雑なシナリオにおいても、高い精度で浸水域を再現できることを確認しています。特にNMFを用いた手法は、精度と計算速度のバランスに優れていることが明らかになりました。
本技術は、スーパーコンピュータのような大規模な計算資源を持たずとも、一般的なPC環境で高度な浸水予測を可能にするものです。今後は、より広域な河川への適用や、リアルタイム水位予測システムとの連携を進め、社会実装に向けた防災システムの基盤技術としての確立を目指しています。